先日、全日本学生柔道連盟の教養講座を聞いてきました。
非常に興味深い内容でしたので、一部を紹介します。
今回、講義をしてくださったのは、筑波大学の菊幸一教授で、
テーマは「学生柔道とJudoの接点」~学生柔道のこれからのために~。
本来、学生柔道というのは、
「教育目的に適う柔道」=「人間教育としての柔道」
であるべきですが、それは建前(タテマエ)で、
実際には、世界(学校対抗)で勝利する柔道というのが
本音(ホンネ)となっています。
これには大学の財政基盤(授業料)の問題が大きく関わっており、
大学とすれば、「勝つことでメディアに取り上げられ、
目立つことで人気を集め、学生増加(収入の増加)につなげる」
という構図ができており、そのため、
学生柔道は特殊な勝利至上主義になっていると、菊教授は指摘します。
これは他のスポーツにおいても同様だと言えるでしょう。
でも、その特殊な勝利至上主義により、
大きな問題が起こってきています。
「勝利」を追い求めるあまり、
中学、高校でも柔道一筋、中等教育で学習すべきことを
きちんと修得しない、柔道だけ強い選手を大学にスカウトし、
そこでも、柔道だけをやらせる。
これでは、社会で通用する人間は育ちません。
かつてアメリカのアメフト界では、
才能ある高校生を大学に勧誘し、
アメフトだけをやらせていました。
大学は、アメフト名門大学として名前を上げ、
プロになる選手もたくさんいました。
しかし、プロになれなかった選手は、
大学で何も勉強していなかったため、
卒業することもできず、社会的廃人、
いわゆる「ソーシャルデス」となってしまい、
大きな社会問題となりました。
ちなみに、アメリカの大学が「入学しやすく卒業しづらい」という話は
聞いたことがあると思いますが、
実際、4割しか卒業できないのだそうです。
結果、一部のプロになれるような選手以外、
「ソーシャルデス」になってしまうようなスポーツはやらせたくない、
ということで、人気スポーツのアメフトを、
親がやらせなくなってしまったそうです。
NCAA(全米大学体育協会)は、すぐさま大学スポーツ改革に乗り出し、
大学に進学するためには、ある程度の学業成績がなくてはいけない、
大学でのシーズン中の練習時間を制限、
指定された単位数をしっかりとらなければ試合に出られない、
単に単位をとるだけでなく、
一定レベルのGPA(成績評価値)を超えないと試合に出られないなどの
規定を定めたのでした。
社会から尊敬されなければ、社会からも企業からも相手にされなくなる。
こうしたスポーツ改革により、
アメリカの大学において、トップアスリートは、
非常に尊敬される存在になってきていると言います。
学生柔道界も、今年度から
大会出場資格として、単位取得を義務化しました。
2013年の理事会で決定し、高校などにも通達。
今年度からの施行となりました。
日本においては、ほかの競技に先駆けての実施です。
これからは、柔道だけをやっていれば高校にも大学にも進学でき、
仕事にも就けるというわけにはいきません。
子供の頃に、勉強する習慣を身に付け、
高校でも、大学でも柔道以外のこともしっかりと学ぶ。
いま、学生柔道の推進していることは、
世界の学生スポーツの潮流の、
先端を行っていると言えます。
フランスにおいて、少年柔道が非常に盛んなのは、
柔道を教育だととらえているからだと言われています。
フランスの少年柔道は、競技力向上ではなく、
人間教育を行っているから人気があるのです。
よく文武両道と言われますが、
菊教授は「文武はひとつ」、「文武一道」と表現しました。
たしかに、このほうがしっくりくるような気がします。
一朝一夕にはいかないと思いますが、
学生柔道が始めたこのムーブメントを柔道界全体に広め、
親御さんたちが、「子供に柔道をさせたい」と
心から思うような環境を、指導者だけでなく、
柔道に関わる方々みんなで作っていかなければならないと思います。
ひのまるキッズ事務局
林 毅